我が道をゆく、女の生き姿をご覧あそばせ。この連載では、パワフルで型破りなお姐さまたちの金言をご拝聴。キャリア・結婚・出産…まわりと比べては、ときどきダークサイドに陥るアラサー世代。そんな自分が小さく思えてきちゃうかも?
今回お話をうかがったのは、歌手で女優の仁支川峰子さん。近年はバラエティ番組にも出演、歯に絹着せぬ発言が女性から支持されているほか、同業者から人生相談を受けることもしばしば。
「あなたね、そんなことやっていると、負けるわよ!」ーー爆ぜる仁支川節、とくとご覧あれ。
映画史に残る名シーンを演じた女優は、“動じない女”

出典: 編集部撮影
血のように赤い布団が敷きつめられた小部屋で、着物ははだけ、髪の毛を振り乱し、悶えながら叫ぶ。
「ここ、噛んでえぇ!」
一度観たら忘れられない、映画『吉原炎上』(87年・東映)の名シーン。仁支川さん演じる花魁・小花が鮮血を吐きながら生を終える場面は、物語のなかでも一際壮絶だ。
仁支川さんが表現する哀愁や情念は、性別を超えて胸を打つ。さらに、社会の枠も超えてーー。
地方興行での歌唱ステージにて、前から5列目までの席が、ずらりと“その筋”の群衆で埋まったことも。怒号に似たヤジが飛び交い、会場の空気は張り詰める。それでも、仁支川さんは動じない。
「いい加減にしろや! おまえらのせいで他のお客さんが何も聞こえないじゃねえか! 悪いけど、それ以上歌を聞かずに騒ぐなら出てってくれ!」
と、一喝。訪れる静寂。
そうしたら、『こいつ、やるじゃねえか』と思ったのか、誰一人帰らず最後まで静かに観ていてくれました。
他のお客さんに迷惑がかかるより、わたしが刺されて死んで済むのなら、それでいいと思いました。だって、ステージで刺されるのは本望じゃない?
コメント: 仁支川峰子さん
映画『極道の女たち』(89年、東映)出演以降は、新幹線で同じ車両になった“その筋”の兄さんたちから、『姐さん! ご苦労さまです!』と次々に頭を下げられたこともありましたね。
コメント: 仁支川峰子さん
「他人と比較している時点で、もう負け」

出典: 編集部撮影
どんなことに直面しても動じない、仁支川さんの強さ。キャリアや結婚…他人と比較しては落ち込み、足もとがぐらつくアラサー世代のわたしたちが手に入れることができたなら。
なぜ誰かと比べるの? 自分の人生は、あなたひとりにしか全うできないんだよ? 他の誰かと同じようには生きられない。みんなそれぞれの人生を持って生まれてきたんだから、誰かの真似なんてできない。
比較している時点で、もう負けだよ。『わたしの個性や人脈は、誰にも真似できない』って、自信を持ちなさいよ。
コメント: 仁支川峰子さん
生きるうえで、妬み嫉みはどうしたって湧いてくる。弱い自分は、いつもすぐそこにいる。けれど。
強くならなきゃダメですよ。生きていくって、負けてられないんだよ。心身がしんどくなったら、小休止すればいいのよ。
コメント: 仁支川峰子さん
「休むことは罪じゃない」と、語りかける仁支川さん自身も、大病を患い、生死の淵を彷徨った。
死にかけたときは、誰も病院には呼びませんでした。だって、誰かがいると甘えちゃうでしょう。だからわたしは、ひとりで戦えるように、いつもひとりなんですよ。
コメント: 仁支川峰子さん
「いつも決断するのは自分ひとり」

出典: 編集部撮影
昔から「どんなときもひとりで戦ってきた」と話す仁支川さんだが、それは、こんな信念があるから。
わたしは、ひとに相談したことがありません。ひとに相談すると、なにか不都合が起きたとき『あのひとがこう言ったから…』と、責任を押し付けてしまうこともあるでしょう。だから、選択の責任は自分で持つの。岐路に立たされたり選択をしなきゃいけないとき、いつも決断するのは自分ひとり。そのときは悩みませんね。
直感、インスピレーションです。たとえ、『こっちを選ぶとしんどいかもしれない。苦労をするかもしれない』とよぎっても、直感の赴くままに選択します。
コメント: 仁支川峰子さん
それで悪いことが起きたときは、『悪いことが起きたな』と思うだけ。直面したら、乗り越えるだけ。乗り越えるために悪いことに遭遇するわけですからね。修行ですよ。
乗り越えたら、『よくやった』と褒めてあげるのも自分自身だよね。
コメント: 仁支川峰子さん
合理性にとらわれがちな現代だからこそ、仁支川さんの言葉は、ずしんと響く。
迷ったとき、楽な方は選ばないほうがいいね。楽な方へは、いつでもいくらでも行けるから。しんどい道を選んだ方が、勉強になりますよ。
コメント: 仁支川峰子さん
「刃物を向けられても、逃げなかったおふくろさん」の存在

出典: 編集部撮影
仁支川さんの強さの根底には、母親の存在があった。それは、峰子少女、8歳のとき。
町内の夏祭りで、次男がきっかけで、おふくろさんとヤクザ屋さんが言い合いになったんだよね。そのとき、わたしはおふくろさんの横に立っていて、長男は背後に、次男は物陰に隠れていた。
コメント: 仁支川峰子さん
「殺してやるぞ!」なんて凄まれても、「やれるもんならやってごらんよ!」と返す母親。相手は包丁を手に、母親めがけ突進した。
包丁の先がおふくろさんの体まで、あと数ミリ…というところで、周囲の大人が止めてくれたんです。おふくろさんは、仁王立ちで身動き一つしなかった。かっこよかったね。
コメント: 仁支川峰子さん
仁支川さんの芯の強さは、母親譲りだという。
『昔の子育てと現代の子育ては違う』と言われるけれど、昔の子育ては間違っていないと思う。子どもが嘘をついたり悪いことをしたら、厳しく叱る。ときには叩く。『子どもを叩くな』と言うけれど、叩く場所の良し悪しを、考えればいい。お尻を叩いたりして、痛みをわからせなきゃ。そして反省させて、痛みを知ってもらう。痛みを知らないと、平気で他人に痛みを与える人間になってしまうよ。
コメント: 仁支川峰子さん
食事も同じ。手の込んだ体にいい料理を作れば、親に対する感謝が増して、他人を大事にする、あたたかくて優しい子になるはず。手抜き料理ばっかりじゃ、愛情の薄い子になっていくように思います。
コメント: 仁支川峰子さん
親の愛情の深さに、時代は関係ない。おふくろさんの厳しくも大きな愛情で育まれた仁支川さんの強さ。令和のいま、わたしたちアラサーが引き継ぐ役目かも。
取材協力 仁支川峰子
photo/玉越信裕
小花は、ゲイやニューハーフの方に好かれているのよね。『わたしが小花を演じるわ!』なんて、みなさんで取り合いになるそうです。
コメント: 仁支川峰子さん