研究者が紐解く「体毛処理の歴史」。昭和女性の“お嬢様化”現象から広まった!?

もはや年齢や性別を問わず広まっている体毛の処理。でも、日本人はいつ・どんなきっかけで処理しはじめたのか。その意外な歴史を、日本の風俗文化に詳しい国際日本文化研究センターの所長・井上章一先生と共に紐解く。

日本の体毛処理の起源は、大正時代から?

時代は大正。とある雑誌に、水着姿の女性がワキを上げるイラストが描かれた広告が掲載された。

<ワキ毛・ムダ毛が取れる
曲線美を創る
エヴァクレーム>

おそらく日本初、脱毛剤の広告である。

日本で、欧米の映画が観られるようになっていた頃です。映画に登場する女性は、社交ダンスのシーンでローブデコルテを着用し、腕を大きく上げてフォックストロットなどを踊っていました。そこでおそらく「女性のワキの下に毛が生えていない」ことが、映画好きの間では認識されていたと思われます

コメント: 井上章一先生

さらに明治時代中頃まで遡ると、ヨーロッパの裸婦画が日本の美術展でも鑑賞できるようになっていたといい、

その多くは、ワキにも下腹部にも毛はなかった。その理由は、サロンに並べるに際して品位を考え、無毛に描くことで生々しさを消し、フィクションの世界を表現していたと考えるのが妥当です

コメント: 井上章一先生

だが一方で、市井はというと。
明治に無毛の裸婦画を観ても、大正で洋画のワキ毛ツルツル女性を目の当たりにしても、脱毛剤の広告を目にしても、昭和の女性は…

当時の一般的な日本人女性には、脱毛がまったく普及していなかったのです。1955年生まれの私の幼少期、女性の間でノースリーブが普及し始めましたが、彼女たちのワキの下には毛が生えていました

コメント: 井上章一先生

井上先生が回顧するのは、ノースリーブ姿でつり革に掴まる女性。プールや海水浴でも、同様の光景が見られたという。

同時期、雑誌の人生相談コーナーにこんな記事が掲載されていたことからも、当時の“身だしなみ”に関する価値観が現代とはまったくかけ離れてることがうかがえる。

こんな投書がありました。

「妻が洗濯したてのパンツで外出しました。この行動、怪しいですよね?」


当時は電気洗濯機が普及しておらず、洗濯はタライで、1週間くらいパンツを洗わないのはよくあることでした。そんな時代の洗いたてのパンツとはつまり、“勝負下着”と同義。それで夫は、妻の浮気かなにかを疑ってるということです

コメント: 井上章一先生

ですから、体毛処理なんてもってのほか。浮気どころか「売春婦になったのでは」とすら思うでしょう。というのは、浮世絵には、吉原の女郎が身だしなみとして毛切り石で陰毛の長さを整えてる様子が描かれているのです。だから男性たちは、体毛を整えることにそういった連想をしてしまったのではないでしょうか。

コメント: 井上章一先生

一般女性の“お嬢様化”により広まった、体毛処理

一方で、体毛処理をしていた女性もいた。

ファッションモデルの元祖であるマネキンガール社交界でローブデコルテを着用するような特権階級の令嬢たちです。市井の人々は体毛処理について、そういった“特殊な人が行うこと”という認識があったのだと思います

コメント: 井上章一先生

そこからどのようにして、現在のように広く根付いたのか。

60年代、70年代にかけての社会情勢が背景にあると思います。
体毛処理が習慣化するとクリームやカミソリが消費されますよね。すると産業は、商品の宣伝に務めると思います。
つまり、高度経済成長期、美容産業の一種でもあったと思われる「体毛処理の商品化」
が成功した
といえます

コメント: 井上章一先生

大正時代には響かなかった宣伝が、なぜこの時期には浸透したのかについて、「女性の意識が変わったのではないか」と井上先生は推察する。

当時は社交界でドレスを着るような女性にしか浸透しませんでしたが、高度経済背長期で、一般女性がみな令嬢並になっていったんだと思います。「私もそちら側の女性になってみたい」ということでしょうか。

そういった意識に産業が、

「大丈夫、あなたもそういう階層の女性なんですよ」
という囁き声を、メディアを通じてシャワーのように浴びせたんだと思います。

コメント: 井上章一先生

そして80年代になると、“あえてワキ毛を生やしている女優”が登場。彼女が脚光を浴び存在感を勝ち取ったことが、体毛処理が定着した世の中になったことの裏付けとなったのだ。

多様化、ジェンダーレス化する体毛処理

昨年12月、ワコールが男性用のシームレス下着や総レースボクサーパンツを発売。新たなジェンダーレスのフェーズに入ったことが見てとれるが、体毛処理についても「美容産業も、男子をターゲットに含める傾向は止まらないのでは」と井上先生は話す。

「男らしさや女らしさの差をなるべく小さくしていこう」という動きですが、例えば男子中学生の母親が息子に対して、「そろそろ剃りましょう」と勧める時代が来るのかと聞かれれば、やや懐疑的です。
とはいえ、性別限らず、個性によって体毛の有無を選択する時代が近づいているのでしょうね。

コメント: 井上章一先生

どんな体毛スタイルを選択しても干渉されない、多様性が尊重される世の中が来ることを願いたい。

text : 有山千春

supervised by

公式
by.S編集部

最新ファッション・美容情報に日々揉まれながら、美の修行中。プライベートではアート、ダンス、韓国、バンド…と個々に芸を肥やす、アラサー世代の編集部。
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